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お知らせ2018.12.19

筑波技術大学平成30年度公開講座「ろう者学セミナー」

 11月11日日曜日、本学の天久保キャンパスにて平成30年度筑波技術大学公開講座・ろう者学セミナー「ろう者の芸術・文化活動、遺伝子と聴覚障害の関係を手話言語で学ぶ」を開講しました。今回は聴覚障害者の芸術・文化活動、遺伝によるろう者コミュニティに焦点をあてた内容を用意し、ろう者、手話を学んでいる方、手話通訳者として活動されている方など、30代〜60代まで幅広い年齢層から6名(きこえる人4名、きこえない人2名)の参加がありました。

 今回のセミナーでは、本学の大杉豊教授、小林洋子助教の2名の教員が講師を務め、プログラムの各テーマに沿って講義を行ったあとに参加者と教員で、講義内容の質疑応答を含めた交流をしました。下記の通り、各プログラムの概要についてご報告いたします。

10:00〜12:00「ろう者の芸術・文化活動」(大杉)

 まず、大原省三(洋画)、三ツ井為吉(陶芸)、井上孝治(写真)の作品が紹介され、海外でろう者の芸術が注目された例として、米国の芸術運動が紹介されました。米国では1950年代にあった公民権運動などによる人権意識の高まりから、1989年頃にろう者としての経験を反映した芸術である“Deaf View”“Image Art”を合わせた“De’ VIA”が台頭し、「抵抗」、そして「受容」の表現活動が見られたのだといいます。アメリカ手話言語(以下、ASL)を取り入れたイラストやろう者文化の誇りをテーマにした作品がそのDe’ VIAと言われるものです。そのDe’ VIAの意味を深く理解するためにアイルランドのろう者が職場における経験を表現した絵画を見て、どのような経験が想像できるかについて、3名ずつに分かれてグループディスカッションを行いました。最近では、そのDe’ VIAからSurdism(フランス語の「きこえない」が起源)への移行が見られ、ろう者としての社会変革・正義を表現する芸術が見られます。

 最後に、文化とは何か?について、「言語」「信条・価値観」「行動規範」「伝統」「生活様式」の5要素を使って、日本文化とろう者文化に見られる違いについて、2回目のグループディスカッションを行い、参加者間の相互確認を進めました。

 このようにろう者の文化活動は、時系列に見ると「ろう者でもできることを表現したもの」から「苦しい経験を表現したもの」へ、そして「ろう者の主張や願いを込めたもの」へと、様々なスタイルが見られることを確認して締め括られました。

13:00〜14:30「聴覚障害と遺伝子」(小林)

 まず、聴覚障害と遺伝子から連想することについて確認をしました。次に、聴覚障害と遺伝子に関する題材としてよく取り上げられる米国のマーサズ・ヴィンヤード島について説明がありました。マーサズ・ヴィンヤード島は、1600〜1800年代にかけて他の地域に比べてろう・難聴者の割合が高い時期があり、デフコミュニティの存在が確認されています。どのようにしてデフコミュニティが発生したのか、当時のろう・難聴者はどのような生活を送っていたと思うか、米国本土に比べて配偶者がろう者の割合が低かったのはなぜなのか、という様々な疑問に対する推測をしながらディスカッションを行いました。日本の奄美大島でもマーサズ・ヴィンヤード島と似たような状況が見られていたことがわかっています。最後は、その奄美大島に見られたデフコミュニティの様子について説明した動画を鑑賞し、参加者間で感じたことなどについて意見交換をしました。

14:40〜15:30 質疑応答を中心とするディスカッション

 教員と6名の参加者で講義内容に対する質疑応答や意見交換などの交流を行いました。その中で、ろう者と難聴者、聴覚障害者と分けることやその文化の違いについての話もあり、参加していたきこえない人2名にも話をしてもらったことで、きこえない人によってはその考え方に個人差があることをきこえる人たちも改めて確認ができ、大変盛り上がりました。

 他ではなかなか学ぶことのできない芸術と文化、遺伝子をテーマに取り上げたことで、「勉強になった」との感想が多く寄せられ、前回に引き続き、今回も2名の教員のお話は大変分かりやすいと好評でした。一方で「手話学を取り上げた内容をやってほしい」という声もありましたので、これからより多くの機会を提供できればと思います。また、遠方よりいらっしゃった方もいて、アクセス面から東京都内での実施を希望する声もありました。次回の参考にさせていただきたいと思います。

 参加者の数が前回よりも半分以下となったのが非常に残念でしたが、参加者と教員で交流を深めることができ、濃い時間を過ごすことができたようです。

 参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!

(報告:ろう者学プロジェクトスタッフ 門脇 翠)

大杉豊教授
小林洋子助教 ディスカッション

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