お知らせ
聴覚障害学生を対象とした「ろう者学講座」開催
2月13日(水)に明治学院大学との共催で、明治学院大学白金キャンパスにて、一般大学に在籍する聴覚障害学生、学生支援に関心のある学生、教職員、社会人の方々を対象とした「ろう者学講座」を開催しました。
おかげさまで、合計11名(学生3名、教職員1名、支援職員2名、社会人5名)にご参加いただきました。
午前の部「ろう者学へのいざない:手話言語の世界を探る」では大杉が講師を務め、まず音声言語体系と手話(身振り)言語体系の違い、そして身振りが手話へ、手話から手話言語へと変容していく過程について、丁寧に説明しました。例えば、「お金」の手話は、動作の方向によっては、意味が異なってきます。片手では「(価格が)高い」「(価格が)低い」「奢る」「税金」が表現できます。両手では「銀行」「裕福(富)」「買う」「売る」が表現できるのです。このように、1つのエンブレムに動作が加わることで語彙化されます。また、語彙化のパターンが洗練されて文法化し、拍子の要素も加わって、表される意味、ニュアンスが変わってくるものもあります。「よろしくお願いします」はその代表的な例の1つです。「良い」「お願い」の表現のテンポ(それぞれ止めて表現するのか、繋げて流れるように表現するのか)や合わせて行うお辞儀のタイミングによって、捉える意味が変わってきます。
さらに、日本の法律では言語に関する取り決めが十分にされていないことから、手話言語法が制定されにくい状況にあることを解説しました。日本語についても何を以って国語とするのかを定める法律がありません。また、オリンピックの開会式時では、国の入場順は1番目のギリシャと最後(開催国)以外は、開催国の言語の表記順で決める慣習があります。しかし、日本開催時は英語による順になっているようです。日本人が日本語を世界に向けて誇示しないのは、法律で国語としての制定が無いこと、または日本人の言語権に対する意識が低いことと関係しているのかもしれません。
この時間を通して、手話言語には文法が存在すること、手話言語と日本語に意外な関係性があることを改めて確認できたのではないでしょうか。
午後の部の前半ではまず、「ろう者学とグローバル社会」というテーマで小林が講師を務め、海外特に米国におけるろう者学の動向について話をしました。米国では高等教育機関において、ろう者の文化や歴史をはじめ、文学、芸術、社会、女性学等が「ろう者学」として幅広く教えられています。「ろう者学」が誕生した背景として、米国社会で起きた歴史的な公民権運動や女性参政権運動、障害者運動についても触れました。最後に、“Deafhood”(ろうであること)について、医学的な意味を持つ“deafness”とは反対に、聴覚障害をポジティブに捉えた言葉がイギリス出身のPaddy Ladd博士によって提唱されたことについてのお話をし、締めました。日本ではまだ普及していないろう者学について深く学ぶことができた濃い時間だったのではないかと思います。
午後の部の後半は、「聴覚障害者スポーツについて考えよう」のテーマで門脇が進行役を務め、デフアスリートの藤原慧選手(競泳)と佐藤湊選手(陸上・棒高跳)にお越しいただき、お話を聞きました。始めに、基本的知識として、聴覚障害者が行う代表的なスポーツの大会として、全国ろうあ者体育大会とデフリンピック競技大会を取り上げ、それぞれの大会の歴史的な背景について簡単に情報を提供しました。ここでは、「聴覚障害者スポーツ」は競技性のないスポーツも含め、コミュニケーション手段も様々にある広義的なものを指しています。一方で、「デフスポーツ」は補聴器を外して手話言語を使う国際ルールのもとで行う競技性のあるものとして定義しました。今回の2選手は、デフスポーツ界で目標を持ちながら競技を行っています。同い年でありながら、生まれ育った環境、聴力、主なコミュニケーション手段、受けた教育、競技環境が異なる点について注目しながら、トークショーを広げていきました。その中で、デフスポーツに出会うまでのこと、デフスポーツを経験して感じたことや自己の中での気持ちの変化などにおいて、国内のデフスポーツの競技力の低さにも触れつつ、障害を前向きに受容できるきっかけとなったこと等についても話を聞くことができました。2選手の“本音”が聞けたことで、参加者の皆さんに非常に興味を持っていただけたようでした。
今回は、手話言語から世界、女性学、スポーツまで幅広く取り上げたことで、大変濃い時間となったのではないでしょうか。開催時期の関係で、参加者があまり集まらなかったのは残念でしたが、次回に企画するときは多くの人が参加しやすい日に設定し、本学で展開しているろう者学をより多くの人に知っていただけたらと思います。
明治学院大学の皆さまに会場提供から周知、会場設営までご協力頂き、重ねてお礼を申し上げます。
最後に参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!