お知らせ
平成30年度第2回ろう者学ランチトーク:ヨハンナ・メッシさん(フィンランド)
5月16日(水)に第2回目のろう者学ランチトークが行われました。今回は、スウェーデンのストックホルム大学言語学部手話部門の学科長であるヨハンナ・メッシさん(フィンランド出身)にお越しいただき、ご自身の生い立ちや手話言語研究についてお話しいただきました。
おかげさまで、教員と学生、地域の方々を合わせて、40名の参加がありました。
フィンランド出身と聞くまでは、てっきりスウェーデン人だと思っていました…。
さておき、フィンランドとスウェーデンはアイスホッケーではいつもライバルですね〜という話から始まりました。メッシ教授の国際手話を大杉教授が日本手話言語に通訳していきます。
彼女は高校までは、スウェーデンにあるろう学校で育ちます。ヘルシンキにある大学に進学してから、初めてきこえる人と一緒に学びます。大学ではメディアを専攻し、アルバイトでも映像撮影や取材などを経験しました。大学に進学後、1年半経った頃にスウェーデンのとある大学で、ろう者のみが参加する手話言語学のクラスがあることを知り、1年間参加します。その頃に知り合った男性と結婚してからは、ずっとスウェーデンに暮らしています。家族や友人からはフィンランドに戻ってきてほしいと説得されましたが、それを振り切ってスウェーデンに住むことを決意したのだそうです。
ストックホルム大学を卒業後は、博士課程で盲ろう者の触手話コミュニケーションの研究を勧められ、あまり深く考えずに始めたことが今に繋がっています。いざ研究を始めてみると、面白くなってきたといいます。『ろう者の手話コミュニケーションと盲ろう者の手話コミュニケーションは似ているようで、実はよく分析すると異なります。指差しや顔の表情などは目が見えるろう者同士では分かり合えても盲ろう者は分からないでしょう?その指差しと顔の表情、さらに頷きや感情などはどのように表しているのか?研究で分かったのは、首を頷く時は盲ろう者の手を挟む動作をする、「ノー」と否定する時は手首を横に振る。「ご飯に行く?」「ご飯に行こう!」の違いも細かい表現がある。感情は手だけでなく腕の動きでじわじわ伝えられるもの。特に怒りの場合は、もう手の動きが上下に揺れて大きくなります。』とメッシ教授は丁寧に話します。話の途中で相手に話を振る場面では、手を完全に振り下ろさず、少し下げることで「あなた、何か言って」という意思表示になるのだそうです。日本では盲ろう者の触手話コミュニケーションに関する研究がありませんので、今回話を聞いて、盲ろう者にとって分かりやすい手話コミュニケーションとは何か改めて考えさせられました。
メッシ教授は、現在、ストックホルム大学ではゼミでの指導の他、講義も持ち、きこえる学生に教えることもあるのだそうです。また、研究ではスウェーデン手話言語のコーパス研究、盲ろう者の触手話コミュニケーション、手話言語の勉強を始めたばかりの人に対する指導法に関する研究をしているとのことです。
以下、質疑応答をまとめます。
Q.スウェーデンでは何が美味しいですか?
地方によっても食べ物が違うのですが、南の方は魚が美味しいです。北の方ではエルク(ヘラジカ)を食べます。とても美味しいですよ。
Q.日本では、日本手話だけでなく、日本語に合わせた日本語対応手話を使う者がいますが、スウェーデンでも同じようなことは見られるのでしょうか?
スウェーデンでもコミュニケーション方法は様々です。難聴者が音声を使いながら手話をすることはありますが、基本的にスウェーデン手話言語です。
Q.初めて盲ろう者に会ったのはいつですか?また、研究にハマったきっかけは何でしょうか?
ろう学校に通っていた時に、盲ろう者も通っていたので、それが初めてです。あの時は、「あれが盲ろう者か!大変だな…」くらいしか思っていませんでした。私自身も当時は家庭内でのコミュニケーションに苦しみました。両親はきこえる人で、3人姉妹で姉がきこえて、私と妹はきこえません。姉は昔、通訳を仕事にしていたことがあります。母も手話言語ができる方です。父は全くできません。父とは頑張って音声も使って話をします。それぞれコミュニケーション方法を変えなくてはいけないというところが大変です。
話を戻しますが、母が教会でたまたま知り合った盲ろう者に通訳をしている様子を見たのをきっかけに少し興味を持つようになりました。また、博士課程に進んだ時に、研究を始めてから本格的に盲ろう者のことを知りたいと思うようになりました。
Q.大学進学を機に、影響を受けたことがあれば教えてください。また、フィンランドとスウェーデンのそれぞれの課題があれば教えてください。
スウェーデンの大学に行った時は、フィンランド手話言語との違いにしばらく苦しみました。スウェーデン手話言語を覚えてからは、世界が広がりました。課題について、北欧では、人工内耳が無料で支給されること、バイリンガル教育が充実していること、手話通訳の制度はかなり素晴らしいです。しかし、近頃は国の予算が減ってきており、かなり懸念しています。フィンランドでは、人工内耳をつける子どもが増えたため、ろう学校に通う子どもが減り、インテグレーションする子どもが増えていることが課題ですね。
メッシ教授はろう女性として大学の学科長という立場で活躍なさっていて、日本ではまだその例がありませんので、そのお姿に感銘を受けた参加者もいたのではないでしょうか。
さらに、本学大学院には盲ろう者の院生が在籍しています。これを機に、盲ろう者のコミュニケーションの研究に興味を持つ学生もいるのではないかなと思います。
参加してくださった皆さん、ありがとうございました!!
*ヨハンナ・メッシさんのプロフィール:
https://www.su.se/english/profiles/jmesc-1.182477