お知らせ
2019年度第6回ろう者学ランチトーク:石田祐貴さん
7月18日に第6回ろう者学ランチトークが開催されました。
今回は筑波大学の大学院生である、石田祐貴さんにお越しいただいて、『研究を通して考える私の「これまで」と「これから」』というテーマでお話しいただきました。
まず、石田さんの自己紹介から始まりました。石田さんはトリーチャーコリンズ症候群の当事者で耳の奇形が原因による聴覚障害があります。トリーチャーコリンズ症候群とは、顔の周辺の骨が未形成・未発達な状態で生まれてくる疾患で、約3〜5万人に一人の割合で生まれてくるそうです。この疾患の当事者の顔つきはとても似ており、他のトリーチャーコリンズ症候群の人と間違われることもあるそうです。
続いて、前半は今までの人生について、グリックマンとカーレイの聴覚障害者のアイデンティティの発達モデルと照らし合わせながらお話しいただきました。
小学校は地元の学校に通い、座席の配置や補聴援助システムなどの配慮を受けながら過ごしていたそうです。このころはアイデンティティの発達モデルにおける「傾聴段階」、すなわち聞こえる人の価値観や常識を当たり前に受容していた段階だったそうです。
中学校も地元の学校に通い、卓球部に入って部活一色の生活だったそうです。なんと全国大会に行くような強豪校で、朝、昼、夜とみっちり練習をしていたそうです。しかし、中学三年生になって部活を引退すると、学校に行く意味を見出せなくなると共に、コミュニケーションがスムーズに取れなかったり、自分が主体となれることがなかったりといった人間関係における壁を感じ、次第に学校に通うことが嫌になっていったようです。このころはアイデンティティの発達モデルにおける「境界段階」、すなわち努力しても聞こえる人と同じようになることが困難であることに気づき、混乱していた段階だったそうです。
高校は大阪の聾学校に通ったそうです。それまで聞こえる人の中で生活してきたこともあり、最初は手話やろう者に対しての抵抗があったそうですが、「卓球」という一つの繋がりがあったことで、聾学校の環境にも馴染むことができたそうです。デフスポーツの意義は大きいですね。聴覚障害者のロールモデルとの出会いもあり、高校生活を通して、手話を習得し、人間関係も広がり、自分に自信が持てるようになっていったそうです。このころはアイデンティティの発達モデルにおける「没頭段階」、つまり手話とろう文化という価値を発見し、それに傾倒していた段階だったそうです。
進路選択の時期、高校の生活が楽しかったこと、聞こえる人との関わりにおける失敗体験から、このまま聾学校の専攻科に進もうと思っていたところ、先生に背中を押されたことがきっかけで一般の大学に進学することを決意したそうです。そして大学では、課外活動やアルバイトなど、聞こえる人と関わる活動における経験を通して、「二文化段階」、つまり、聞こえる人、聴覚障害者の双方の文化的価値観を肯定的に受容し、バランスよく捉えることができる統合の段階に至ったそうです。
続いて、後半は現在とこれからについてお話しいただきました。石田さんは現在、筑波大学の大学院で聴覚障害児・者の認知に関する研究に取り組んでおられるそうです。そのきっかけは、家庭教師や教育実習を通じて、聴覚障害児がどのように物事を捉えて考えているのか疑問に思ったことからだそうです。「ろう児は、聞こえない聴児ではない」、つまり、ろう特有の認知能力の発達があり、聞こえる人とは異なる方略で物事を捉えて考える可能性が研究で報告されています。これからは、基礎的な研究成果と教育現場をつなげる橋渡し的な役割をになえるような存在となっていきたいそうです。
以下、質疑応答をまとめます。
Q 私のアイデンティティの発達はグリックマンとカーレイのモデルに当てはまらないのですが…。
A もちろん、家庭環境や教育歴など様々な要因があるため、みんなが当てはまるわけではありません。一部の段階が抜けたり、順番が逆になることもあります。私の場合は小学校から大学の期間にこのモデルの発達過程を歩んでいた、ということです。皆さんも、これから生涯を通じてこの発達段階を歩む可能性もあるかもしれません。人によって様々なので、1つの参考程度に見ていただけたらと思います。
Q 聞こえる人と話すときには何か工夫をされていますか?
A 最初が大切だと思っています。私は比較的聞こえる方なので、ついついそのまま話してしまいがちですが、環境や状況が違えば聞こえないこともあります。一定の人間関係が築けてから後々説明する場合、それまでの経験があるため理解してもらうことが難しいと感じることがあったので、人間関係を築く最初の段階でどうしてほしいか具体的に説明することが大切だと思います。
今回はおかげさまで学生、教職員、地域の方を合わせて28名の参加がありました!お越しいただき、ありがとうございました!
今回のお話しが、自分のアイデンティティの発達について振り返ったり、自分のこれからについて考えるきっかけになったのではないでしょうか。石田さん、貴重なお話をどうもありがとうございました!!!