お知らせ
2019年度第12回ろう者学ランチトーク:松田崚さん
1月23日(木)に第12回ろう者学ランチトークが開催されました。
今回の講師は弁護士の松田崚様にお越しいただき、「弁護士になるまで&弁護士として」というタイトルでお話いただきました。
現在、日本にはきこえない弁護士が12人いて、松田さんは12人目の弁護士だそうです。
山形県出身で、幼少時代から中学時代まで地元の山形県立山形聾学校に通い、行事や遊びに夢中で読書も大好きなどこにでもいる少年だったようです。きこえる同年代の人とも積極的に交流し、土日は少年野球をしたり、近くの小学校との交流や運動会、キャンプ企画にも参加したりしていたとのことです。
中学生になった頃から、新しい世界に飛び込んでみたいという思いから地域の高校へ通うことを考えるようになりました。そして、地域の高校へ進んでいくことになりますが、そこで初めての挫折を味わうことになります。入学後初めての試験で、よい成績をとることができず、このまま3年間やっていけるのか不安にかられたそうです。情報保障はFMマイクを使用していましたが、他に板書や読唇、教科書や友人から借りたノートを確認するなど、いろんな方法を試しながら授業に参加していたようです。その時は要約筆記や手話通訳の存在すら知らず、相談できる相手もいなかったとのことでした。
そんな高校時代の経験が、「人権」とはなんだろうと深く考えるきっかけにもなったとのことです。大学では法律や社会について学びたいと、筑波大学に進学しました。そこで、初めて障害学生支援と出会い、ノートティクやパソコン要約筆記、手話通訳などを利用するようになっていきました。
また、大学時代は、同じきこえない学生や手話サークルメンバーとの出会いなどもあり、彼らと交流を重ねることで自分が知る世界がより広がっていきました。全日本ろう学生懇談会では企画実行委員や役員も務め、全国各地の学生との交流を深め、貴重な経験を重ねました。
弁護士を目指すようになったきっかけは、大学1年の時にきこえない弁護士の田門浩先生との出会いが大きかったようです。「きこえなくても弁護士になれるんだ・・・。」その後、田門先生と面談や裁判傍聴なども経験し、大学3年の時に法学を専攻することを決め、憲法ゼミを選択することになりました。一方、大学3年夏には全国ろう学生懇談会での企画運営などに奔走するなど燃え尽きてしまい、同時に焦り感も出てくるようになりました。大学3年の秋に参加したPEPENet-Japan主催のシンポジウムで開催されたエンパワメント研修会に参加したことを機に弁護士になる決意を固めていったようです。
そして、弁護士になるために大学院に進学します。大学院を選ぶにあたって、当時大学院生であったきこえない弁護士の若林亮先生に相談しながら、15校に問い合わせ最終的に一橋大学大学院に進学することを決めました。大学院では、先輩にパソコンティクをお願いしたり、ゼミ発表など自分が中心になって発表する時は手話通訳を依頼するなど、工夫を重ねていきました。
大学院を卒業後、1回目の弁護士試験に臨みますが、結果は不合格になってしまいました。試験対策不足を実感し、2回目に向けて猛勉強を重ね、ついに合格を勝ち取ることができたとのことです。
次に、弁護士としての仕事についてお話ししていただきました。弁護士といえば、裁判所で、裁判官や被害者、加害者とのやりとりをしながら、時々「異議あり!」と弁護している姿をまず思い浮かべると思います。松田さんは、弁護士として裁判所に立った時に「異議あり!」と言ったのは、まだ1回だけだそうです。
弁護士の一般的な流れとしては、法律に関する相談を受けた上で打合せや会議などを行い、受任する場合は文書起案をして交渉に入り、そして調停、審判、裁判を行い、解決させていくという流れになるようです。仕事をする中で、松田さんは手話通訳や、音声認識、筆談等、場面に応じて臨機応変に対応するようにしているとのことでした。
1年目で、一番印象に残っているのは、きこえない依頼者から「ほっとした」と言ってもらえたこと、尋問を担当したこと、そして旧優生保護法に関わったことだったようです。
今後、目の前の困っている人を助けられるように、幅広く弁護士としての実力をつけるためにより多くの経験を重ねたり、講演等を通して多くの人々に伝えるなど、きこえない人の権利や生活を守り、より暮らしやすい、働きやすい社会にしていきたいと抱負を語ってくださいました。
おかげさまで教職員と学生、地域の方々合わせて14名の参加がありました。
私たちは日々法律に守られながら暮らしています。より暮らしやすくしていくためには、弁護士の存在が欠かせません。今回、改めて弁護士の存在の大切さを学び、考える貴重な機会になったのではないでしょうか。
松田さん、貴重なお話をどうもありがとうございました!
そしてお越し下さった皆様、ありがとうございました!