一人暮らし高齢者の増加が社会的課題となっています。足立区では、高齢聴覚障害者のためにどのような取り組みをされていますか?
私は、現在、地域関係では、特定非営利活動法人デフ・サポート足立(旧名、足立区ろう者福祉推進合同委員会)理事長を務めています。1993年(平成5年)に50歳で長年勤めた全日本ろうあ連盟を退職した時、地元では足立区ろう者協会会長を担っていました。ろう協会長10年目でした。これを機会にろう者、手話通訳者、手話学習者一体の組織をと思い、合同委員会を発足させました。 足立区ろう者協会は1948年(昭和23年)に発足しましたが、当時20歳前後だったろうあ者が戦後の焼け跡の中他のろうあ者を探し歩いて見つけ出し、「一緒にがんばろう」とスタートさせたものです。その方々が老年期に入ってきています。だからお互いに支え合ってやっていこうという気持ちを持ち続けてきているのです。 2004年(平成16年)、合同委員会はこれまでの活動を元にNPO法人を取得し、同時に聴覚障害のある高齢者のためのデイサービス「デフケア・クローバー」をスタートさせました。現在、都内では聴覚障害のある高齢者のためのデイサービスはゼロに等しい状況ですが、「デフケア・クローバー」では現在、週に3回平均10名の高齢聴覚障害者が通ってきています。一般社会でも高齢者サロンのような交流活動は奨励されていますから、それにろう者も入れてほしいと訴えて周囲の理解を広めていくこともできますし、各地に広がることを願って、若い人たちにはぜひがんばってほしいですね。
西日本にも、兵庫淡路・ふくろうの郷に大矢さんという方がいらっしゃいますので、訪ねるとよいと思いますよ。そこには、ふくろう大学というのがあって、手話語りの紙芝居とかを入所の高齢者を中心にでやっていますから、話を聞くだけでも面白いと思いますよ。廃校になった中学校でボランティアの人が作ってくれた食事を食べて、交流して、畑で作った野菜をお土産に帰るというような方法で、夏休みに1泊2日でもいいから行ってみるのもよいと思いますね。
2015年(平成27年)には社会貢献者表彰を受賞されました。今を生きる聴覚障害者や、福祉を学ぶ学生たちへのメッセージをお願いします。
聴覚障害福祉関係だと、ろう難聴者のソーシャルワークの集まりというのがありますね。福祉に興味のある学生はそこに集まってもいいと思います。ただ、精神面のケアに集中して、悩みを抱えて相談にきた人を支援することが多いと思いますので、それだけではなくて、地域社会で生活している方々の様子を観察して、どんな支援が必要かを考える人も増えてほしいですね。 若い人たちは大学で勉強している間に地域社会の活動に参加してくれたら、みんな楽しいから集まると思うのですよ。東日本大震災のボランティアに参加したような人たちみたいに、普通のおつきあいの中での支援ができる人が増えてほしいですね。専門の資格をもつことは大切だけど、みんなができることではないので、資格をもっていなくてもできることはたくさんあると思います。 また、若い人たちは、もっと自己主張してもよいと思います。他の人から頼られる立場に立つとか、周りを見ながら、他の人たちと歩み寄って何か形になるものを作っていこうとするという姿勢が大切になってくると思いますね。 私としては、特に女性たちには、できれば地域のろうあ団体に入って、一人ではできないこともみんなの力を合わせれば、きっと実現することがあることの経験をしてほしいと思います。将来はろうあ連盟の理事になるなど表舞台で活躍する人が増えてきてほしいですね。世界ろう連盟理事長になったリサ・カウピネン氏みたいに、将来は世界ろう連盟と一緒に活躍できる人が出てきてもいいじゃないですか。 また、やっぱり、その時その時の仲間を大切にして、お互いに支えあいながら、日々の暮らしを豊かにしてほしいと思いますね。私もたくさんの人に支えられてきましたから、人と人のつながりは大切にしてほしいと思います。
(インタビュー日時:2016年9月〜2017年2月)
及川リウ子氏 NPO法人デフ・サポート足立理事長 ◆プロフィール 1942年(昭和17年)岩手県生まれ。12歳で骨髄炎を発症、14歳の時に薬による副作用のため失聴。10年間の闘病生活後、20代で東京のろうあ運動に参加し、婦人部の活動を始めた。同時に全日本ろうあ連盟書記局に入り、1979年(昭和54年)には全日本ろうあ連盟本部事務所専従職員となり、1993年(平成5年)まで勤務。51歳で退職後、地元の足立区で「特定非営利活動法人足立区ろう者福祉推進合同委員会」を設立し代表に就任。2004年(平成16年)には高齢のろう者のためのデイサービス「デフケア・クローバー」を設立し、聴覚障害のある高齢者のために精力的に活動している。長年の実績が評価され、2015年(平成27年)度社会貢献者表彰を受章した。
及川リウ子氏の年表
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及川リウ子さんに関する出来事
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一般の出来事
1942昭和17年(0歳)
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9月15日、岩手県に生まれる。
直後、母と一緒に父のいる満州へ渡る
1945昭和20年(3歳)
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敗戦により、家族で満州から引き揚げる。
引き揚げの途中、年子の妹が亡くなる
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一般の出来事
衆議院議員選挙法が改正され、女性の国政参加が認められる
1947昭和22年(5歳)
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一般の出来事
教育基本法 第4条(義務教育)の施行
1948昭和23年(6歳)
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小学校入学
1954昭和30年(12歳)
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中学1年夏休み骨髄炎を発病し、病院での長期入院
〜22歳頃まで
1956昭和31年(14歳)
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薬による副作用のため失聴
玉浦ベッドスクール(国立療養所の中にあった私設養護学級)で学ぶ(6ヶ月)
1966昭和41年(24歳)
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国立聴力言語障害者センターへ入所
1967昭和42年(25歳)
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国立聴力言語障害者センターを修了
タイプ印刷会社に勤務
1969昭和44年(27歳)
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東京都聴力障害者団体連絡協議会活動に参加
全日本ろうあ連盟書記として入局
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第1回関東地区ろうあ婦人大会開催、運営協力司会を担当
1970昭和45年(28歳)
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東京都聴力障害者協会(当時)理事(婦人部担当)
美濃部対話集会準備参加、東京都手話奉仕員養成事業開始、世話人→運営委員を担当、全国婦人部設立準備委員会担当
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一般の出来事
第19回全国ろうあ者大会、東京で開催
1971昭和46年(29歳)
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一般の出来事
全日本ろうあ連盟「本部事務所」開所
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一般の出来事
第1回全国ろうあ婦人集会の開催(京都)
1973昭和48年(31歳)
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手話通訳派遣協会の発足、運営委員を担当
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一般の出来事
手話通訳派遣協会の発足、運営委員を担当
1975昭和50年(33歳)
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一般の出来事
全国ろうあ者大会(名古屋)にて婦人部誕生、連盟婦人部の発足
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一般の出来事
国際婦人年世界会議開催(メキシコ)
1976昭和51年(34歳)
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一般の出来事
全日本ろうあ連盟による手話通訳認定試験の開始
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一般の出来事
国連婦人の10年(76〜85年)
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一般の出来事
NHK「聴力障害者の時間」放送開始
1979昭和54年(37歳)
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全日本ろうあ連盟専従職員となる(〜平成5年)。
足立区ろう者協会理事
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一般の出来事
民法第11条改正
1981昭和56年(39歳)
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文部省と、第10回全国ろうあ婦人集会開催として国立婦人会館について交渉
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一般の出来事
国際障害者年開始
1984昭和59年(42歳)
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足立区ろう者協会会長(平成18年まで)
1985昭和60年(43歳)
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一般の出来事
「アイ・ラブ・パンフ」普及運動開始
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一般の出来事
女子差別撤廃条約(国際条約)締結
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一般の出来事
男女雇用機会均等法制定
1986昭和61年(44歳)
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一般の出来事
男女雇用機会均等法施行
1989平成元年(47歳)
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一般の出来事
学習指導要領改訂(高校家庭科の男女必修化)
1991平成3年(49歳)
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一般の出来事
育児休業法公布(現:育児・介護休業法)
1993昭和5年(51歳)
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体調を理由に全日ろう連を退職
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足立区ろう者福祉推進合同委員会委員長に就任
1996平成8年(54歳)
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足立区役所に喫茶「茶房ゆうあい」オープン店長
(身体障害団体連合友愛会経営)
1997平成9年(55歳)
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東京都聴覚障害者連盟理事
(手話対策部長〜平成14年)
1998平成10年(56歳)
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足立区長表彰を受賞
1999平成10年(57歳)
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全日本ろうあ連盟表彰を受賞
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一般の出来事
男女共同参画社会基本法公布
2000平成12年(58歳)
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一般の出来事
地方自治体の男女平等条例の制定が始まる
2001平成13年(59歳)
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東京都ろうあヘルパー養成講座運営を担当
(平成17年頃まで年2回開催)
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一般の出来事
2001年には内閣府に男女共同参画局が設置され、いわゆるドメスティック・バイオレンス法(配偶者からの暴力の帽子及び被害者の保護等に関する法律)が制定
2002平成14年(60歳)
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東京都知事表彰を受賞
2003平成15年(61歳)
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一般の出来事
次世代育成支援対策推進法公布
2004平成16年(62歳)
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NPO法人を取得し、理事長に就任、現在に至る。
地域活動支援センター「デフケア・クローバー」施設長(〜現在)
2005平成17年(63歳)
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足立区社会福祉協議会表彰を受賞
2006平成18年(64歳)
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一般の出来事
男女雇用機会均等法の改正で、性別による差別禁止の範囲を拡大し,男性に対するセクシャル-ハラスメントも対象になる
2007平成19年(65歳)
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一般の出来事
仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章策定
2011平成23年(69歳)
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東京都聴覚障害者連盟表彰を受賞
2013平成25年(71歳)
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足立区区政80周年特別表彰を受賞
2015平成27年(73歳)
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社会貢献者表彰を受賞
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団体名改称「デフ・ケアサポート足立」理事長継続
平成27年度筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター教育研究等推進経費事業「ジェンダー論からみたろう・難聴学生へのエンパワメント指導教材の開発研究」に基づく成果の一部です。