「ろう女性としてのキャリアとは」今を生きるろう難聴女性の本音を聞いてみよう。Part2(2/6)

<ろう女性としてのキャリアとは>

小林:同じ立場同士のネットワークがあると心強いですね。例えば、筑波技術大学は聴覚障害者のための大学なので卒業生同士のネットワークがあると思いますが、皆さんはその点はいかがでしょうか。

中原:筑波技術大学の学部デザイン学科の学生はどちらかというと女性の割合が多いので、女性としての働き方などといった様々な情報は入りやすいように思うのですが、IT関係やシステムエンジニアのような情報通信系の技術職についている女性の働き方についてはあまり情報が入ってこないように思います。

小林:ロールモデルの存在は大切ですね。確かに、IT関係やエンジニア系の技術職に就いているろう男性の話はよく聞くと思いますが、ろう女性の話はあまり聞きませんね。

加藤:駒崎さんは、会社の中で採用の仕事をしているとのことですが、育児しながら仕事を続けている女性は多いのでしょうか。

駒崎:ろう女性だけの範囲で見ると、育児しながら働き続けている人は少ないように思います。育児休暇をとっても復職前後で辞める人が多いように思います。最近、会社でも育児中の女性を支援する制度ができたり、女性管理職を積極的に登用したりすると、会社の実績として評価される時代になっていますが、ろう女性にとってはまだまだ壁を感じる部分があると思います。特に、IT系やエンジニア系の技術職に就く女性は全体的に少なく、色々な会社のパンフレットを見ても女性が昇進したり活躍すると珍しさを強調して掲示されることが多いように思うので、ろう女性となるとなおさらではないかと思います。

中原:私の知人に聴こえるシステムエンジニアがいますが、女性が辞める理由を聞いたところ、残業が多い職種のため、子どもがいると両立が厳しくなる人が多いという話を聞いたことがあります。私も情報通信系で勉強しましたが、親戚から「将来子どもを持つことを考えたら、システムエンジニア系はよく考えてから選んだ方が良い」と言われたことがあります。自分のキャリアを考える上で、システムエンジニアを選ぶか、出産後の仕事復帰を考えた場合、一般企業の事務職に就く方が良いのか悩むところです。

加藤:障害者手帳を持っていると昇進が難しいと先輩から聞いたことがありますが、そのあたりはどうなのでしょうか。

大杉:多分それは、法律で定められている障害者雇用率制度が関係していると思います。従業員が一定数以上の企業の場合、障害者の雇用率が定められていて、この制度で雇用された障害者は昇進が難しいのではないかという意味だと思います。一般の試験を受けて採用された場合は話が変わってくるでしょう。子会社の場合昇進する可能性が多いかもしれませんが、大きな会社となると状況がまた違ってくるのではないかと思います。あと、給与の仕組みも当然異なってくると思います。

管野:今はわかりませんが、私たちの時代、学校で女性について取り上げている授業といえば、妊娠・出産について学ぶ保健の授業くらいしか思い浮かびませんよね。これから女性が働くにあたってきちんとライフプランを立てていく必要があるというような授業は受けていませんでしたよね。

小林:大学においても、キャリアに関する教育はありますが、女性をテーマにした内容はあまりないのではないかと思います。女子大の中では取り組んでいるところはあると聞いていますが。

駒崎:私は、中高は女子校でしたので、授業の中で先輩からの話を聞く機会がありました。警察官として働いているとか、結婚・出産して仕事をどのように継続しているかというような内容で、様々な職種についている女性がいることを知りました。そういう環境だったので、女性として家庭との両立がしんどいというイメージは無かったです。確かに皆聴こえる人ではありましたが、その話から得られたものが私の中ではかなり大きく、今の自分があるように思います。ろう者としての部分は、それはそれとして分けて考えています。先輩から話を聞く経験はやっぱり必要ですし、色々なロールモデルがいることを知るだけでも本当に違うと思います。

小林:私の場合、自分がろう女性であることをはっきりと意識し始めたのは30歳あたりを過ぎてからです。アメリカに行ってから意識するようになりました。留学先の大学などでろう女性学の存在を知ったのですが、ろう女性の生き方、人生、歴史、キャリアなど幅広いテーマに触れることができました。また、様々な分野でキャリアを重ねているろう女性と出会い、多様なロールモデルを間近に見たことで自分を見つめ直すきっかけにもなりました。

平井:私たちの世代は、働きながら子育てをする母親の背中を見て育った人も多いので、自分も結婚・出産後も仕事を続けたいと考える人はたくさんいると思います。生まれて初めて会うのは母親ですから、母親の影響は大きいですよね。


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