「出産・育児について」今を生きるろう難聴女性の本音を聞いてみよう。Part2(3/6)

<出産・育児について>

加藤:今まで仕事の話が中心でしたが、出産や子育てもライフキャリアの一つですよね。出産のタイミングとか、出産時の医者とのコミュニケーション方法とか、陣痛が来た時の病院へ行く方法などを知りたいです。

長野:医療関係者とのコミュニケーションについては、私の場合、たまたま病院に手話のできる看護師さんがいたので大変助かりました。医師や看護師の中で手話ができる人がいると心強いので、医療関係者対象の手話講座はやってほしいですね。陣痛がきても、すぐに生まれるわけではないし、今はろう者も車の免許を持っている人が多いので、家族が運転して病院に連れていくことも多いようです。

小林:私には姉が2人いるんですが、一番上の姉は結婚後実家を離れて地方に住む旦那さんの実家の近くにお嫁に行ったんですが、子育てなど何かと義親にはなかなかサポートなどお願いしにくかったというような話を聞いたことがあります。一方、2番目の姉は実家の近くに住んでいて、子守などなにかと実親を頼っていますね。育児に関しては、女性の場合は実親の方が頼りやすいという話をよく聞きますね。

長野:私の場合、実母は他界しているので、その分夫婦で協力しあっていましたが、親や親戚など周囲のサポートを得てからは育児が楽になりました。一人目の時は人に頼らずやろうとして疲れてしまったのですが、二人目の時は、親戚や地域の育児支援ヘルパーに家事や育児を手伝ってもらい、大変な時期を乗りきることができました。保育園や幼稚園、小学校でも、行事や保護者会活動等の係や委員を親が持ち回りでやらないといけないことが多いので、積極的に周囲とコミュニケーションをとらないといけないが、中々難しい。そういう悩みは、育児中のろう母親たちの中でよく話題になりますね。

小林:地域の育児支援ヘルパー支援制度も使ったとのこと、地域の資源を上手に使うことも大切なことですね。

加藤:アメリカに住んでいる友達から聞いた話なんですが、陣痛が来た時、テレビ電話で救急車を呼んだらしいです。アメリカでは、テレビ電話を使って119番通報するなど24時間対応でしてもらえるんですよね。

管野:私の友人は、妊娠が分かった後に産婦人科に行ったら、分娩するなら大きな病院の方が良いと勧められたそうです。何か緊急事態が起きた時には大きな病院に搬送されることもあるから、コミュニケーション面を考えると、初めから大きな病院を選んだ方が安心みたいです。

長野:私も大きい病院でした。自宅から徒歩圏内で夜間も開いているので、何かあった時でも、一人でも駆け込めると思って選びました。出産は、最後まで何があるかわからないですから。

平井:産む時に、手話通訳者も同伴する人がいるのかどうかは分かりませんが、看護師で手話ができる人がいない病院は、すぐに依頼できるようななんらかの仕組みがあれば良いですよね。

小林:親がろう者の場合、夜中など子どもの急病などで突然病院に連れて行かなくてはならなくなった時、電話リレーサービスを利用したくても、対応してくれる時間帯がだいだい朝8時〜夜8時くらいまでと限られているため、夜中の非常事態に対応できないので困るという話をよく聞きます。

平井:電話リレーサービス24時間体制については、全日本ろうあ連盟が中心になって国と交渉してくださっていますが、私たちの要望を受け入れてもらうためにもより多くの人の声、特に女性の声も必要ですよね。

<障害のある子を持つ育児について>

加藤:ろう母親の育児についてなのですが、子どももろう児の場合、就学前まで母親も一緒にろう学校まで通う必要があるため、仕事を辞めざるを得ないと聞いたことがあります。そのあたりも聞きたいです。

小林:最近育児と仕事を両立するろう女性を対象に調査しましたが、ろう女性の中には、自分の子どももろう児であるという人が何人かいました。教育での同伴の都合上、仕事を辞めざるを得なくなったというケースも実際にあるようです。祖父母と同居している、あるいは近居で協力を頼めるような場合でも祖父母に頼りすぎるのはよくないということで仕方なく辞める人もいるようです。

子どもがろう児以外、例えば発達障害や重複障害のある子どもの場合は、また状況が変わってくるようです。障害のある子どもをもつろう母親が仕事を辞めるケースが多い理由としては、教育や生活面でかなり時間が取られるため、両立が難しいということなのではないかと思います。現時点では障害のある子どもの家族への支援体制も整っているとは言えませんし、障害のある子どもを育てていくことは厳しいのが現状なのではないかと思います。また、子どもがろう児の場合は、ろう者の親自身が自分の経験と照らし合わせとができるのと、ロールモデルがたくさんいるので肯定的にとらえる人が多いようですが、発達障害や重複障害のある子どもの場合、どのようにお子さんと向き合っていけばよいのか、どのように育てていけばよいのか悩まれている方が多いように思います。あと、育児の都合上正社員からパート勤務や非常勤に変えざるをえない方も多いようです。

管野:私も現在、ろう学校教員の立場にいますが、ろう母親がろう児を育てる場合、仕事を続けることは難しいという話をよく聞きます。聾学校の幼稚部に通う場合、送迎の問題に加えて、教育の実践のために母親も授業同席が条件になっているところも多くありました。現在、一部の聾学校では緩和されてきているらしく、送迎のみ、もしくは朝の送迎後は別室で待機して、午後2時授業終了後一緒に帰宅できるところもあるそうです。そうなると、午前9時〜午後2時の時間帯でできる仕事がないため、今までの仕事を辞めざるを得なくなった母親もいました。それが仕事を継続できず、女性としてのキャリアを積めない一因なのかもしれません。


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