聴覚管理の指導に係る手話単語の確定研究

研究の目的

 新生児聴覚スクリーニング検査の実施拡大により乳幼児の時期から補聴機器を装用する聴覚障害児が増加しています。これらの聴覚障害児が成長し社会において自立した生活を営むためには、言語の確保やコミュニケーション技術の習得とともに、補聴機器の仕組みや特徴を知り、技術進歩の動向も把握した上で、加齢による聴力の変化に上手く対応していく「聴覚管理」の習得も不可欠な要素となっています。

 しかしながら、聴覚管理に関わる用語(例:イヤモールド、音場、マッピング)それぞれに対応する手話単語が不足しており、指文字の使用に頼らざるを得ない状況です。指文字は日本語の文字を正確に表せる利点を持ちますが、一字ずつ表現するために時間がかかること、用語の持つ意味を視覚的に表していないことなど不便な点が多くあります。そのために、教育機関での聴覚管理の指導や、聴覚障害者同士の会話において、用語それぞれの意味が正しく定着している可能性が極めて低いと考えられます。

 この結果として、人工内耳に関する正しい知識や新しい情報の広まりも医療従事者と比すると、聴覚障害者の社会においては極めて遅れているでしょう。聴覚障害者自身が補聴機器に関する知識を有した上で、例えば音楽を聞くための補聴器の自分の合わせた効果的な利用方法を手話で分かりやすく指導するように、聴覚管理の分野にも聴覚障害を持つ当事者が進出していくことを願っています。

 そこで、本研究では、聴覚管理及び手話開発の分野における専門家が連携を取ることにより、必要とされる用語について手話単語を開発し、この手話単語を本学の聴覚管理分野で使用するほか、全国の聴覚障害教育・福祉機関にも普及を図ることを目的とします。

 なお、本研究は平成20年度の筑波技術大学教育研究等高度化推進事業により実施されました。

研究の進め方

1. 手話単語化が必要とされる用語の選定
 本学教員及び聴覚管理専門家が中心となり、手話単語化の必要な聴覚管理の用語を50語選定しました。この選定にあたって参考にした文献は以下の通りです。
 日本補聴器工業会 技術委員会. 補聴器用語集 2006.
 黒田生子. 人工内耳とコミュニケーション 京都:ミネルヴァ書房, 2008.
 人工内耳友の会[ACITA]. ACITA会報 2006年~2008年.
 久保武, 井脇貴子. 人工内耳の機器の選択. 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 2002; 74(11): 754-758.
2. 手話単語の確定
 日本手話研究所標準手話確定普及研究部より本委員4名を本学に招聘し、本学施設を利用して委員会を開催し、50語の内44語について手話単語を確定しました。
3. 確定した手話の公表
 確定した手話単語の映像を日本手話研究所に作成頂き、本学のウェブサイトにて公開し、インターネットを通して誰でも自由に閲覧できるようにしました。

研究参加者

大杉 豊筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 准教授(本研究代表者)
佐藤正幸筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 教授
大久保 豪 医療科学研究所 研究員
高田英一日本手話研究所 標準手話確定普及研究部 部長
小畑修一日本手話研究所 標準手話確定普及研究部 研究員
黒崎信幸日本手話研究所 標準手話確定普及研究部 研究員
青柳美子日本手話研究所 標準手話確定普及研究部 研究員

研究協力者

小縣ありす 記録・映像制作
鈴木 潔ウェブサイト制作

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