(7) デフ・アート

1 対象

筑波技術大学に在籍する聴覚障害のある学生20名

2 指導の形態

通常教室 90分授業

3 指導の目的

1)聴覚障害のある画家が職業的自立を果たしているのみならず、米国では映画芸術などに大きな影響を与えていた過去について学ぶ。

2)米国では、聴覚障害者が描く絵画作品を「Deaf Art」とする一方、ろう者の経験を反映させる視点の見られるものが「De’VIA」と呼ばれるようになっていることを学ぶ。

3)以前の授業で見て来た俳句や漫画でもDeaf ArtとDe’VIAの概念を基軸に分析できることを確認する。

4 指導にあたって

・ワークシートを配布、終了時にスライド資料を配布する。

・ワークシートを使ってグループ活動ができるようレイアウトを考える。必要に応じてブギーボードを利用させる。

・DVD「世界聾偉人伝1グランヴィル・レドモンド」を準備する。

・Chuck Baird作品のポストカード、Ann Silverの書籍を準備する。

・日本聴力障害新聞を教材として使える工夫をする。

5 本時の展開


学習活動 指導・支援内容
(留意事項及び配慮事項)
評価の観点

 
 
デフ・アートの意味を考える(5分)
本授業の流れを説明する。
 
S1で「デフ・アート」についてイメージするものを問いかける。
  • アートとは何?
  • ろう者が作ったものは全て「デフ・アート」?
  • 手話をモチーフにしていたらデフ・アート?
「デフ・アート」とは何かを考えることが本授業のテーマであることを認識させる。
コミュニケーション方法を調整できているか【観察・発問】
 
 
 
 

デフ・アートを考える上で、米国の映画の歴史を説明する。(10分) 管野他2016が「デフ・アート」を「ろう芸術」と訳していることを紹介し、米国における聾芸術の動向の冒頭で一人の聞こえない有名な画家を紹介していることを説明し、S2で米国映画の歴史を簡潔に説明する。
  • 映画は無声から発声へと技術的な変化がある。
  • 無声映画時代はテロップ(字幕)がつけられていて聴覚障害者も一緒に楽しめていた。
DVDを鑑賞する(10分) S3で、米国の無声映画の例(チャーリー・チャップリン)を紹介し、続くS4でDVD視聴とする。
 
13:05〜19:05「犬の生活」などレドモンドが出演した映画の紹介
17:10〜19:05ジョン・シュッチマンによる「レドモンドの解説」
視聴に集中できているかどうか【観察】
デフ・アートの意味に関する議論を深める(10分) S5でレドモンドの絵画作品を見せて、これは「デフ・アート」かどうかを学生に発問して考えさせる。
  • デフ・アートである場合は、その根拠は?
  • デフ・アートではない場合は、その根拠は?
授業の流れを理解できているか【発問】
 
 
米国ろう者コミュニティの反応を理解する(10分)
(以下、雰囲気を見てやるかどうかを決める)
米国の映画が無声から発声に変わったことに対する米国のろう者コミュニティの反応を学生に発問して考えさせる。
 
DVD視聴:19:33〜20:37ジョン・シュッチマンによる「無声映画の終焉」
職業的自立手段について理解する(10分) S5での議論をS6につなげて、日本でも職業的自立手段として画業などのろう者が多くいたことを理解させる。 教員の説明を理解できているかどうか【観察】
De’VIAの概念を紹介する(10分) S7から米国の「ろう者の文化としての絵画」に関する解説を始め、S8を経由して、S9で「De’VIA」という考え方を紹介する。S10, S11で「De’VIA」と言える作品を紹介する。
 
グループ活動で作品の分析を通して、De’VIAの意味を考えさせる。(20分)
最後にグループ活動として、S12の絵画作品を提示する。4・5人のグループに分けさせて、課題を出す。
  • これはDe’VIAと言えるか?
  • この作品は何を表現しようとしているのか?
グループでまとめた内容をホワイトボードに書かせ、発表させる。その上で、この作品の作者について紹介する。
 
アイスランドにいるろう者の作品。職場にうまく定着できず仕事をたくさん変わるも定職まで行かず、やがて家に閉じこもり、アルコール中毒になる中で描いた作品である。
自分の意見をきちんと言えているか【観察】
ポイントを理解して分析作業をしているか【観察・発問】


本時で学んだ内容を復習する(5分) 教員が発問する形で、学生に本授業で学んだことを確認できるようにする。
発問例:
  • チャップリンがろう者との交流があったことをどう思うか。
  • デフ・アートとは何か。De’VIAとは何か。
授業の目的を理解できているか【発問】

参考文献

・論文:管野奈津美・大杉豊・小林洋子、2016、日本におけるろう芸術の動向、筑波技術大学テクノレポートVol24(1),27-32

・DVD:聾市場、2004年、「世界聾偉人伝1グランヴィル・レドモンド」

・書籍:Ann Silver

さらに深く学ぶために

・報告:大槻芳子、1994、ろう芸術・ろう文化の歴史と展望、平成6年度障害者文化芸術振興に関する実証的研究事業報告書、日本障害者リハビリテーション協会

・報告:管野奈津美、2015、「聞こえない」芸術表現の可能性を模索して、日本財団聴覚障害者海外奨学金事業10周年記念報告書〜奨学生のこれまでと今後の飛躍〜

・論文:管野奈津美・大杉豊・小林洋子、2017、美術館における聴覚障害者を対象とした鑑賞支援と情報アクセシビリティ、筑波技術大学テクノレポートVol24(2),32-38

・書籍:黒岩比佐子、2009、音のない記憶 ろうあの写真家 井上孝治、角川学芸出版

・その他、ろう者の芸術関連図書多数あり

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