7月9日(水)に第8回ろう者学ランチトークを開催しました。
日本ASL協会のご協力を頂き、日本財団聴覚障害者海外奨学金事業の第10期奨学生として、今月末米国に出発される辻功一さんと山本綾乃さんにこれまでの経験についてお話し頂きました。
おかげさまで教職員・学生合わせて41名の参加がありました。
まず、辻さん(写真上)の講演テーマは「企業でのコミュニケーション方法」でした。本学(筑波技術短期大学)の卒業生であり、13年間、民間企業で働いた経験をお持ちです。Web関係の仕事に就き、Webデザイナー、エンジニア、Webディレクターを経て、チームリーダーを任されるようになりました。しかし、Webディレクターやチームリーダーになると、業務上、クライアントなど接する人が増えたり、複数人での会話や会議が増えたりしたため、会議等の内容に追いついていけず、コミュニケーションの難しさを痛感するようになります。
そこで社内に手話サークル「シュワ会」を立ち上げ、週に1~2回開催したところ、自分を理解してくれる仲間を得られただけではなく、立ち話で出るような社内の情報を得ることもできて、職場でのコミュニケーションの幅が広がったといいます。また、手話サークルを立ち上げたことで耳のきこえない自分の存在が社内に広く知られ、新しく会う社員などが配慮してくれることが多くなり、会話がスムーズになったという効果もあったそうです。
人と接することが少なかったWebデザイナーやエンジニア時代はメールによるコミュニケーションで十分と思っていたが、この経験を通して職場でのコミュニケーション技術も磨いていく必要があることを学んだそうです。「権利の主張はもちろん大事だが、手話の使用を押し付けるよりも『落としどころを探る』努力が必要だと思う」という最後に投げかけたメッセージがとても印象的でした。
次に、山本さん(写真下)の講演テーマは「真の情報保障って何だろう~群大ライフから学んだこと~」でした。今年3月に群馬大学を卒業したばかりですが、群馬大学は情報保障体制が充実しており、講義にはほぼ通訳がついていたそうです。しかし、講義に情報保障がついたとしても、休憩時間やランチなどであちこち交わされる学生たちの会話の中に「来週休講だよ」「過去のテスト問題をあの先輩が持っているらしいよ」など裏情報があふれており、それらの情報を自分が得ることができませんでした。
そこで、飲み会やサークル活動、話し合いでは、後輩が交代で情報保障係として手話通訳やパソコン通訳を担当し、移動のときはスマートフォンを使って雑談する、また、日常生活の中でも周りの状況等をなるべく伝えるなど工夫してくれました。先輩、同級生、後輩などから様々なサポートがあり、「情報保障は山本さんのためだけではない。私たち(聴こえる学生)のためにもある。お互いに保障する必要がある」という共通意識がそこにありました。
山本さん自身も情報保障を受けていく中で、支援者としてはろう・難聴学生本人のニーズを確認しながらバランスよく情報を届けることが大事、しかし自分が知りたい情報を選択するのはろう・難聴学生本人の判断であると感じたそうです。
最後に、①講義の情報保障だけでは、充実した大学生活を送ることはできない⇒自分で協力してくれる仲間を集める、②通訳は技術があるだけでは十分とはいえない⇒通訳が必要な場面に気づくセンスも必要であり、お互いにニーズを確認しながら支えあっていくことが大切だということを、群馬大学4年間の中で学んだとお話しくださいました。
大学や社会人を経験したお二人が周囲とのコミュニケーション方法についてどう工夫していったか、貴重な経験をお話ししてくださいました。学生たちに大変参考になるお話だったのではないかと思います。お二人のこれからのますますのご活躍をお祈りしています。
参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!