7月21日(火)に第11回ろう者学ランチトークが行われました。
今回はフィンランド人ろう者エートゥ・ケスキ-レビヨキさんにお越し頂きました。講演テーマは「フィンランドにおける手話通訳」です。エートゥさんはユヴァスキュラ大学大学院の手話教育コースを修了後、様々な大学や聾学校に手話教員として勤め、現在は『Viparo』という通訳派遣会社で地域マネージャーを務めておられます。今回はフィンランドの手話通訳事情についてお話し頂きました。
おかげさまで教職員・学生合わせて36名の参加がありました。
フィンランドの面積自体は日本とたいして変わりはありませんが、フィンランド人口は約550万人と、日本人口の約1億2700万人と比べてとても少なく、人口密度もそんなに高くないといいます。エートゥさんは首都ヘルシンキに住んでおられます。白夜といって太陽が地平線に沈まず、夜はずっと明るいため、カーテンを閉めて寝なければならないとフィンランドならでの生活の様子も紹介してくださいました。フィンランドには33のデフ・クラブがあり、ろう者は約5000人いるとされています。
フィンランドには手話通訳養成学校が3校あり、毎年500人ほどの応募が届き、その中から書類選考で100人選出され、面接試験を通過して合格した20~30人が入学を認められ、4年間手話通訳について学ぶという、手話通訳士にとっては狭き門となっています。
フィンランドに手話通訳の派遣を中心とした通訳派遣会社が65社ほどあります。数年毎に各通訳派遣会社は会社に登録されている通訳者の情報や通訳料金などを明記した資料をフィンランドの社会保険庁(KELA)に提出しなければなりません。KELAがその提出された資料を基に依頼先をリストアップしていきます。そして、ろう者がKELAに通訳派遣を依頼し、KELAがリストの依頼先の順番に沿ってどの会社に依頼するか決定し、ろう者の元に通訳者を派遣するというシステムになっています。ちなみに通訳料金が安い順番にリストアップされているそうです。そのリストは以前、通訳者の技術に対する評価も含まれていましたが、今期は省かれ、通訳料金のみになっているとのことです。次期には、通訳者の技術に対する評価も含まれることを期待していると話してくださいました。
エートゥさんが勤務されている『Viparo』はろう者が立ち上げた通訳派遣会社です。社長のMarkus Aroは手話通訳学科を卒業しましたが、どの会社にも就職を断られたため、自分で会社を立ち上げました。当初は5人程の小さな会社でしたが、今は49人の従業員が在籍しているほどの規模の大きな会社に成長しました。そのうち、ろう者の従業員は9人です。
また、経営者陣7人のうち、4人がろう者です。エートゥさんもその1人です。会議でも手話が使われており、自分が頼んでいなくても、きこえる人たちが尊重してくれ、自ら手話を使ってくれるそうです。このようにろう者が会社の運営・管理に携わり、きこえる人と平等に働ける環境が整備されているといいます。
エートゥさんの仕事は手話通訳、手話指導、フィンランド語からフィンランド手話への翻訳、手話通訳に関する相談事業など多岐にわたります。『Viparo』はフィンランド南部を中心に展開しており、エートゥさんは、ヘルシンキとユヴァスキュラの地域を担当しているとのことです。
『Viparo』はフィンランド手話、フィンランド-スウェーデン手話、アメリカ手話、スウェーデン手話、国際手話、触手話などの手話通訳サービスを提供しています。スウェーデンと隣接しているため、隣接した地域ではスウェーデン手話と混じったフィンランド手話を使用するろう者がいるそうです。また、対応できる音声言語はフィンランド語、スウェーデン語、英語、スペイン語となっています。
フィンランドの手話通訳事情について色々貴重なお話を伺うことができ、大変勉強になったのではないかと思います。また、ろう者が手話通訳関連の仕事に就き、まして会社の管理・運営に携わり、きこえる人と同じように働いて能力を発揮できる環境が整備されていることに驚きました。それについても大変良い刺激になったのではないかと思います。
参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!
※『Viparo』のホームページに国際手話による紹介動画も掲載されているので、ぜひご覧になってほしいとのことでした。どうぞ、ご覧下さい。
これで前期のろう者学ランチトークは全て終了です。後期は10月から開催する予定です。