筑波技術大学平成27年度公開講座「ろう者学セミナー」

2015/10/26掲載

 10月3日(土)、本学の天久保キャンバスにて平成27年度筑波技術大学公開講座・ろう者学セミナー「ろう女性学の視点から女性の生き方を考える 〜ろう女性が自分らしさを発揮できる社会を目指して〜」を開講しました。ろう者学セミナー第2弾として、今回はろう・難聴女性に焦点をあてた内容を用意し、キャリアを積んでいる方や子育て・介護を経験されている方、地域社会で活躍している方など、20代〜60代まで幅広い年齢層から11名の参加がありました。

 今回のセミナーでは、本プロジェクトスタッフの小林と管野、そしてLifestyle of Deaf Women代表の長野留美子氏が講師を務め、プログラムの各テーマに沿って講義を行うとともに参加者同士でディスカッションやグループワークを行いました。下記の通り、各プログラムの概要についてご報告いたします。

10:00〜11:00 「男女共同参画社会について ジェンダーってなんだろう」(小林)

 まず、参加者の自己紹介から始まり、本セミナーに興味を持った理由や女性としての経験や葛藤について話して頂き、ろう・難聴女性が抱えやすい問題について共有しました。「現在育児中だが、地域に住むママ友との付き合いに戸惑っている」「日中は仕事しているので、地域の人々との関わりが薄く、身近な出来事についてなかなか情報が入らない」など様々な悩みが挙げられました。次に、男女における就労状況や教育状況の違いや障害者権利条約にみるジェンダーについて講義を行いました。例えば、総務省の年齢階級別労働力の統計データにおいて、日本は20〜30代に結婚・出産などでいったん離職した後しばらくして40代頃に再就職する、いわゆる「M字カーブ」問題が顕著に見られています。一方、他の先進国では日本ほど結婚や出産で離職する傾向はあまりなく、日本は女性が働きやすい環境がまだ整備されていないことを示しています。このように、女性特有のキャリアに関する課題も共有しました。

11:10〜12:00 「海外におけるろう女性学」(小林)

 女性の参政権の歴史や海外にみるろう女性学誕生における経緯等について話しました。アメリカでは、1950年代〜1960年代、黒人(アフリカ系アメリカ人)に対する偏見や差別が著しかった頃に公民権運動が起こり、それが後に「黒人学」の誕生につながったという経緯があります。その後、「女性学」「メキシコ系アメリカ人学」「同性愛学」など、学問として各地の大学で教育指導や研究が行われるようになりました。このような背景もあり、1980年には「ろう者学」が開講され、続いて1993年に国立聾工科大学(NTID)において「ろう女性学」が立ち上げられ、現在はカリフォルニア州立大学ノースリッジ校やギャローデット大学でも開講されています。

13:00〜14:40 「歴史とジェンダー 〜ろう女性の語りや文献資料からみえてくること〜」(Lifestyle of Deaf women代表・長野留美子氏)

 一般の女性史とろう女性の歴史についての概要を話した後、グループに分かれて、昭和を生きたろう女性の語りの映像を視聴してどう感じたかディスカッションを行いました。とても活発なディスカッションが行われ「昔はろうはうつる、親戚にろう者がいることを隠すなど、偏見はあった。今はだいぶ偏見はなくなったが、ろう女性の結婚や育児に関してはまだ潜在的にあるのではないか。」「親がしっかり自分の考えを持っていないと、子どもの意識に影響してしまうのでは。」などの意見が出されました。次に、日本聴力障害新聞の過去記事[①初のろうあ婦人大会 全日本ろうあ連盟婦人部結成 1969-1970年代、②全日本ろうあ連盟婦人部(国との初交渉)、市川房枝氏講演 1979〜80年 ③ろう女性の妊娠・出産1960〜70年 ④ろう女性の政治参加(女性議員当選)]を配布し、全員で読みました。記事を読んだ上で4つのテーマから1つ選択し、グループごとにディスカッションを行いました。「昔のろう女性の育児は、ろう協会など地域の人々に支えられていた部分もあった。今の若い夫婦は孤立化して、昔より状況が悪くなっているのではないか。」「ろう女性議員は何人か誕生しているが、ろう男性議員はこれまでまだ例がない。女性の方が出産や育児で地域との関わりが強いため、社会問題に目を向けやすいのだろうか」「市川房枝氏の講演の中で『ろう者の中から議員を出して、自ら政治を変えていくのはどうか』と助言があったが、30数年後に議員が何名か出たところに歴史の意義を感じる」などの意見が出されました。

14:50〜16:00 「ろう女性学の視点から女性の生き方を考える」(管野)

 最後に、「ろう女性学の視点から女性の生き方を考える」をテーマに課題解決シートを作成してペアで意見交換を行い、各自抱えている課題やこれからできることを話し合いました。最後に1人ずつ発表して頂き、自らの課題の気づきになったようで、「地元に帰ったら自治体のイベントに参加するなど、近所付き合いや地域とのつながりを強化していきたい」「ママ友同士で集まる機会があるが、愚痴だけで終わってしまう。普段から関わる人に少しずつ悩みを話していって、課題を解決するきっかけを作っていきたい」など、これからの意気込みを話してくださいました。

 ろう女性をテーマとしたセミナーは今回が初めての試みのため、当初は参加者が集まるかどうか不安でしたが、本セミナーで初めて会ったとは思えないほど参加者同士のとても熱いディスカッションや意見交換が交わされ、関心の高さがうかがえるとともに、それぞれが自らの経験をもとに、ろう女性として漠然とした問題意識を抱えていることを実感しました。そして、参加者同士のディスカッションや意見交換を通してろう・難聴女性が抱える課題を共有でき、いくつかの重要なポイントを見出せたのではないかと思います。

 「様々な立場の女性と意見を交わすことができ、非常に有意義だった」「今は生活が便利になったが、若い女性なりに色々葛藤を抱えていることを学べて良かった」と参加者から声を頂くなど、充実した内容の公開講座となりました。まだ課題は多く残りますが、日本の「ろう女性学」の構築に向けて、大きな一歩となったと思います。

 参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!


 

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