7月11日(月)に第10回ろう者学ランチトークが行われました。今回は筑波大学大学院の門脇翠さんと本学産業技術学部4年の設楽明寿さんにお越し頂きました。講演テーマは「デフアスリートの現状を通した研究とは?」です。お二人は6月25日~7月2日にブルガリアで開催された第3回世界ろう者陸上競技選手権大会の日本代表として選出され、今回は世界ろう者陸上競技選手権大会に出場した経験、そして大学・大学院で研究されているデフスポーツに関する研究内容についてお話し頂きました。
おかげさまで、教員、学生、地域にお住まいの方々合わせて、36名の参加がありました。
まずデフスポーツについて、国際ろうスポーツ委員会では「様々な価値観がある聴覚障害者が参加するスポーツ活動」と定義されていますが、今回のお話では、「一般社団法人日本聴覚障害者陸上競技協会に関わる活動」とされていました。
次に第3回世界ろう者陸上競技選手権大会の報告がなされました。設楽さんは4×100mリレーチームの補欠としてチームをサポートし、チームは銅メダルを獲得しました。門脇さんは200mに出場し、結果は予選敗退でした。4×100mリレーではチームの2番手として走り、5位入賞を果たしました。世界ろう者陸上競技選手権大会で使われた光刺激スタートシステムですが、今回は日本製が採用されたそうです。
設楽さんは小学3年生から地元の一般学校に通い、中学から本格的に陸上を始め、大学に入学してからデフ陸上に出会います。今回の世界大会に初めて出場してみてフィジカル(身体)の違いはもちろん痛感しますが、日本とは異なった食環境や気候の中で、他国で開催される大会に参加するのは初めてで、例えば大雨だったり雷がなっていたりしても練習や競技が中断されないことに戸惑いを感じたといいます。また、国際手話を通して、その場で思いついた手話を混ぜながら、様々な国とのろう者と交流することができたと話します。
現在、卒業研究として、デフスプリンターを対象とした振動によるスタート合図通知システムの開発を進めています。現在は光で判断するシステムになっていますが、まばたきで微妙に遅れてしまう難点があります。スタートのちょっとした何ミリ秒かの遅れが記録に影響してしまうと話します。触覚刺激による反応の方が視覚刺激による反応に比べて早いという先行研究もあり、振動刺激を用いたクラウチングスタートにおける反応時間計測システムの開発を進めておられるそうです。
門脇さんは小中高は一般学校に通い、小学校から陸上競技を始め、中学・高校は陸上競技部で競技を続けます。大学1年生の時、参加していた大会で、日本聴覚障害者陸上競技協会のスタッフが補聴器を付けて参加していた門脇さんを偶然見つけ、声をかけられたことがきっかけとなり、デフ陸上と関わるようになります。また、これまでデフリンピックやアジア太平洋ろう者競技大会などに出場した経験がおありで、これまでの国際経験を通して、日本の競技力がまだまだ低いと感じると課題を話してくださいました。門脇さんはデフ陸上と関わってから、チームメイトとの会話を通して手話を覚えましたが、自分は「ろう」なのか「難聴」なのか戸惑いを感じるときがあるといいます。しかし、国際大会での経験を通して、ろう文化としての一面に触れることができ、ろう者としてのアイデンティティが競技生活にどう影響を与えるのか考えるようになったといいます。
そもそも、何故デフアスリートはデフリンピックや世界ろう者競技大会を目指すのか、デフスポーツにどんな魅力があるのか、その疑問を紐解くため、大学院では「デフアスリート視点によるデフスポーツ意義の検討(仮)」といったテーマで研究されています。国際大会出場を目指す18歳以上のデフアスリートにアンケート調査やインタビュー調査を行っているそうです。デフリンピックは認知度が低いため、このような研究を進め、デフアスリートを取り巻く環境改善について何らかの貢献ができたらと話します。
お二人とも現役で選手を続けながら、同時にデフアスリートの立場から研究されています。今後、どのような成果が出るのか楽しみですね。競技力の向上やデフスポーツの啓発にもつながる貴重な材料になることでしょう。お二人のこれからのますますのご活躍をお祈りしています!!
参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!