平成28年度第11回ろう者学ランチトーク:西雄也さん&福島愛未さん

2016/07/25掲載

 7月14日(木)に第11回ろう者学ランチトークが行われました。今回は日本ASL協会「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の第12期留学奨学生としてまもなく米国留学に出発されるお二人にお越し頂きました。西雄也さん(講演テーマ:「ろう学校の教育現場から米国留学へ」)と福島愛未さん(講演テーマ:「アメリカ留学 ~Deaf Space~」)です。

 おかげさまで、教員、学生、地域にお住まいの方々合わせて、41名の参加がありました。

 西さんは大阪府出身で一般学校に通い、大学で芸術(美術)と教育を専攻したあと、ろう学校で美術教諭をされていました。学校の現場では、ろう教育の専門性の向上と継続の難しさ、そして聞こえる教員と聞こえない教員の指導に対する価値観の違いを痛感したと言います。

 そこで西さん自らが専門とする芸術分野で「デフアート(Deaf Arts)」に注目します。日本では「聞こえない人の作品」という見方が一般的ですが、米国では「ろう者としての経験を反映した芸術」という概念が作られ、聞こえない生徒のアイデンティティーを育てる一つの方法として有効であるとされています。

 ろう教育の専門性の向上と教員間の指導に対する価値観の相互理解、そして「デフアート」の意義と概念を学び、教育方法を研究するために、退職して米国へ留学することを決意しました。米国では、3~4年じっくり時間をかけて、世界から集まるろう者の価値観の多様性や米国のデフアート関連団体の取組みについても学ぶことを大変楽しみにしているとのことです。

 留学を終えた後は、ろう教育現場に戻ってデフアートを活かした授業づくりを実現したい、そしてデフアートのワークショップや講演なども展開することを目標にしていると、西さんは自身の夢を力強く語りました。

 本学を今年3月に卒業されたばかりの福島さんは在学中に米国東部への研修に参加したことが米国留学につながる大きなきっかけとなりました。米国研修でギャローデット大学を訪問した時に、「デフスペース(Deaf Space)」の理論と実際を知り大きな衝撃を受け、建築を専攻する中でこの新しい概念をもっと知りたいという気持ちにかられて、卒業研究でも「デフスペース」をテーマに取り上げたそうです。

 「デフスペース」は聞こえない人の感覚、言語コミュニケーション、そして視る経験の共有などの研究をもとに、聞こえない人がより過ごしやすい空間を完成させていくという概念があります。

 福島さんは、米国で知った「デフスペース」の例として、街で門を曲がってくる人や車が見えにくい問題を解決するためにカーブのある角を作る、家屋の向きを斜めにして庭のスペースを活かすなどの方法を紹介します。また、車いす使用者を支援するために階段に代わって作られるスロープは、聞こえない人同士が手話で話しながら歩くにも有効であること、そして聞こえない人同士が手話で話しながら道を歩いている時に後ろから車が来るのを自然に察知して道の脇に移動する現象が研究対象になっていることなど、米国で発展している「デフスペース」の研究のすばらしさを語ります。

 日本でも、聞こえる人の生活を基準に作られる空間に音情報を視覚化して伝える機器(ランプなど)を設置して補う考え方から、聞こえない人の行動パターンやろう文化に合わせた空間作りの考え方に視点を移していく必要があると福島さんは強調します。例えば、教室の電灯を点滅させて生徒に合図を送るために、スイッチは入り口のところでなく黒板の下にも作って教員がすぐに点滅させられるようにします。筑波技術大学の一部の教室では実現していますね。

 福島さんは米国留学でアメリカ手話と英語を身につけて「デフスペース」をみっちり学び、帰国後は米国と大きく異なる日本の建築様式や文化に合った「デフスペース」とは何かを研究していきたいと話します。

 西さんと福島さんの米国留学にかける決意と内容をわかりやすく話していただいたランチトークでした。お二人のますますのご活躍をお祈りしています!!

 日本ASL協会の「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」は今までは長期留学を中心に支援していましたが、次回からは1年未満の短期留学をも支援することになったそうです。詳細は次のサイトにあります。
http://www.npojass.org/archives/14571

 参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!


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