『映画「LISTEN リッスン」自主上映会inつくば』の開催

2016/10/26掲載

 10月8日(土)に筑波大学芸術系との共催で、『映画「LISTEN リッスン」自主上映会inつくば』を開催しました。

 開催直前に会場周辺が局地的な大雨にみまわれ、道路が冠水するというハプニングもありましたが、本学の学生・教員を含め、筑波大学、茨城県内にお住まいの方々などにお越しいただき、最終的には83名の方々にご参加いただきました。悪天候の中、足を運んでくださり、ありがとうございました。

 まず、大杉のプレトークでは、一例として自らの幼少時代の音楽に関する体験談を話し、ろう者・難聴者全員が同じような音楽体験を経験しているわけではなく、残存聴力のある人・ない人、手話ができる人・できない人、補聴器を使用する人・使用しない人などによって様々であることを説明しました。もちろん、補聴器を使い、音楽を聴き楽しんでいる聴覚障害者もおられます。そのことをふまえた上で映画を見て感じて頂きたいとまとめました。


全体司会・大杉豊
(筑波技術大学 ろう者学教育コンテンツ開発取組 代表)

 上映後のアフタートークでは以下のゲストをお迎えし、映画の感想について話し合われました。

 雫境(DAKEI)さん (「LISTEN リッスン」共同監督)
 村上史明先生 (筑波大学 芸術系 総合造形助教)
 湯浅友美子さん (筑波技術大学 学生)

 湯浅さんは本学のデザイン学科4年生で、ダンスサークル「ソウルインプレッション(Soul Impression)」で活動されています。音楽を感じ取り、踊る立場から「ダンスのサークルで、ビートに合わせて1、2、3、4、5、6とカウントを取りながら踊っているが、それとは全く違うもの。ビートやリズムとは関係なく、それぞれ異なった自分の中のリズムを自分なりの表現の仕方で表している。そのような音楽があるのだと思った。」と感想を頂きました。


湯浅友美子さん(筑波技術大学 学生)

 村上先生は筑波大学でメディアアートを研究・指導されている立場から、「ハリウッド映画のように奇抜な演出や、CGの使用や過剰なカット割りもなく、シンプルな撮影方法によって出演者の手や体の動きが強調され心に残った。音楽は音や空気の振動による物理的な現象だが、それによって私たちが感動するのは、不思議なこと。「音楽」とは何だろうと問題提起してもらっているような作品に思えた。」と感想を頂きました。


村上史明先生(筑波大学 芸術系 総合造形助教)

 雫境さんは、ろう者の舞踏家として活躍されています。今回は共同監督として、映画「LISTEN リッスン」の制作・監督に携わりました。「私は聞こえないので、音はわからない。聞こえる人たちに音楽とは何かと聞いても「分からない」「知らない」という答えが返ってくるだけ。はっきりとした定義がない。湯浅さんの話の中にリズム、ビートのことばが出てきたが、音楽はそれだけではなく、リズム、ビート、テンポ、高音、低音、メロディ、スピードなど様々なものが融合して音楽になっている。ろう者はリズムだけが音楽と思うかもしれないが、本当はそうではない。目を見て動きを合わせるだけでも躍動感を感じるという人がいた。それも音楽の1つだと捉えている。耳で聴くものではなく、私たちは目で捉えて感じている。感じたそのものを、日本語に置き換えて説明するのは難しいが、その辺りについては皆さんにも考えて頂けたらと思う。」と映画を制作した意図について語りました。


雫境(DAKEI)さん (「LISTEN リッスン」共同監督)

 また、映画の中に出てきた手話単語を取り入れたリズムの繰り返しの部分についても議論が行われました。ろう者は手話がわかるので、手話単語の意味は理解できます。しかし何を繰り返しているのか、全体的には意味をなしておらず、混乱したという話がありました。それに対し、雫境さんは「もう1人の監督の牧原と話し合った時に、手話の意味を頭で捉えようとすると混乱してしまう。そこから何かに気付けるのではないか、それを私たちは問題提起とした。」と説明します。村上先生からは、「手話の意味についてはわからなかったが、手や体の動きに人間が持っている根源的な身体の動きの美しさを感じることができた。」と。このように様々な視点から一つの動きについても幅広い解釈が出てきて、充実とした内容のアフタートークとなりました。言葉以前に自分の身体から自然に湧き出てくるものがありますが、映画「LISTEN リッスン」はそれを上手く体現できている映画ではないかと改めて感じました。



アフタートーク風景

 この度は「LISTEN リッスン」をつくば市で上映するとともに、アフタートークを通してお越し頂いた監督とともに「音楽」とは何であるかを語り合う機会を持つことができ、嬉しく思います。聞こえる・聞こえないに関わらず、普段聴いているもしくは触れている「音楽」とは何か、日常生活の中で使っている感覚についても見つめ直す良い機会になったのではないかと思います。音楽の楽しみ方、表現方法に正解はありません。雫境さんもおっしゃっていましたが、それぞれ帰られた後も、「音楽」の定義について考え続けて頂けたらと思いました。

 ゲストの皆さま、お忙しいところお越し頂き、ありがとうございました。そして筑波大学芸術系の皆さまにも会場提供から宣伝、運営まで色々とご協力頂き、重ねてお礼申し上げます。

 最後にご参加いただいた皆さま、ありがとうございました!!


終了後、ゲストの皆さんと

(写真撮影協力:青木嘉輝、岩田直樹)

(管野奈津美)

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