11月26日(火)に第8回ろう者学ランチトークが開催されました。
今回の講師は聞こえる世界と聞こえない世界をつなぐユニバーサルデザインアドバイザーで国際ユニヴァーサルデザイン協議会理事の松森果林様にお越しいただき「きこえる世界ときこえない世界をユニバーサルデザインでつなぐ〜東京ディズニーランドから空港まで〜」というテーマでお話しいただきました。
松森さんは小学校4年生で右耳を失聴、中学校から高校にかけて左耳も聴力を失い、生まれてからの17年間で聞こえる世界、聞こえにくい世界、聞こえない世界を体験してきたそうです。松森様は、補聴器を使ってきこえる世界に入ったり、補聴器を切って静かな世界に入ったりして便利、とおっしゃっていました。そして、「聞こえないことが強み」だとおっしゃっていました。しかし、このように思えるまでには時間がかかったそうです。
11歳の時、右耳が聞こえないことを理由にいじめられた経験から、「聞こえないことは恥ずかしいこと」と思い込み、「聞こえるふり」をして、聞こえないことを隠して生きていこうと決心したそうです。そして高校2年生の時、両耳とも失聴し、志望していた専門学校から聴覚障害を理由に断られたことから、「聞こえるひとが中心の社会」だと感じ、自殺未遂までしたそうです。
そんな時に聞こえなくても学ぶことができる筑波技術短期大学のことを知り、入学し、情報保障のついている授業を受け、聞こえない世界でも困らないことを体験します。さらに聞こえない友人との会話の中で手話も習得していきます。デザイン学科の授業の中でバリアとは「見える、聞こえる、歩けるなど障害がないことを前提にした社会にある」、だから最初からバリアを作らないユニバーサルデザインの考えが重要だということを学んだそうです。
そしてデザイン学科メディア演習論での「東京ディズニーランドを10倍楽しむための提案」という授業で聞こえないと楽しめないことは何か?その課題に対する解決方法を提案するという研究を二年間行い、最終的には(株)オリエンタルランドでプレゼンテーションもしたそうです。これがきっかけで、ディズニーランド側もバリアフリーやユニバーサルデザインに取り組みはじめました。卒業後はオリエンタルランドで働き、装飾デザインに携わるとともに、ユニバーサルデザインについても関わっていたそうです。こうして学生時代の提案が実現したものはいくつもあり、東京ディズニーランドには例えばディスアビリティアクセスサービス(旧ゲストアシスタントサービス)や、ディズニーハンディーガイド(アトラクションなどの字幕が表示される機械)の貸し出しなどがあるそうです。使ったことのある方も多いのではないでしょうか。
また、これらハード面の配慮だけでなく、手話のできるキャストを育成するなどソフト面にも力を入れているそうです。松森さんは、この講義を受けたことで「聴覚障害があるからと不満や怒りを訴えるだけでなく、どうすれば楽しめるようになるのかを提案していけば社会は変わるんだということを学んだ」とおっしゃっていました。その後、パーク内だけでなく、社会全体をより良いものにしたいと、独立します。松森さんは、「大切なことはすべてここ(筑波技術短期大学)で学んだ」と前置きし、以下の四点を挙げられました。
1、聴覚障害について:自分の障害について自分のことばで伝える力
2、聞こえないからこそ気付ける課題:聞こえないことをプラスに変える発想
3、課題を解決する提案力:訴えるだけでなく共に楽しみながら社会を変える
4、わかりやすく伝える力:聴覚障害について視覚的に伝える様々な方法
これらを生かし、現在は成田空港や羽田空港のユニバーサルデザイン検討委員会にも関わっているそうです。音声情報を文字情報で提供する様々な手段、手話フォンの設置や聴覚障害者でも困らないエレベーター、トイレの光警報装置などのハード面だけでなく、接客スタッフへの研修企画から講師といったソフト面にも力を入れているそうです。
また、松森さんはこれまで25年間以上にわたり、テレビCMに字幕をつける提案をしてきたそうです。現在テレビ番組には字幕はほとんどついていますが、CMにはまだついていないものが多いですよね。松森さんは総務省のCM字幕検討会に参加されたり、CM字幕応援団(Facebook)を立ち上げたりして、精力的に活動されており、現在では約20社がCMに字幕を付与しているそうです。聞こえる人と同じ情報が得られる「情報のユニバーサルデザイン」の重要性が伝わりました。
また、松森さんは「ダイアログ・イン・サイレンス」を日本で初開催するにあたり、企画監修をされてきました。ダイアログ・イン・サイレンスとは、静寂の中で言葉や音に頼らずに対話を楽しむエンターテイメントです。1998年にドイツで開催され、日本では2017年から始まり、本学卒業生や在学生が何人も活躍されているそうです。来年の夏には「ダイアログ・ミュージアム」がオープンするため、音のない世界を案内するアテンドを育成するスクールが開校されるそうです。興味のある方は是非受講してみてはいかがでしょうか?
今回は学生、教職員、地域の方を合わせて28名の参加がありました!お越しいただき、ありがとうございました!
今回のお話で、コミュニケーションを作り上げることも、人との違い、コミュニケーションの違いも楽しむことが大切だということを感じたのではないでしょうか。松森様、この度は貴重なお話をどうもありがとうございました!