きこえない学生を対象とした「ろう者学講座」開催

2019/12/17掲載

 12月4日(水)に同志社大学社会学部社会学科との共催で、同志社大学今出川キャンパスにて、関西地域の大学に通うきこえない学生、支援する学生・教職員、きこえない社会人の方々を対象とした「ろう者学講座」を開催しました。

 おかげさまで、合計26名(学生5名、教職員11名、社会人10名)にご参加いただきました。

 最初のテーマでもある「情報保障とコミュニケーション保障」では、大杉が講師を務め、まず大学での講義で必要なのは情報保障か、それともコミュニケーション保障か、それぞれの違いは何かという問いかけから始まりました。簡単にいえば、その違いとは「方向性」です。情報保障が支援者から支援対象者に向かっての単方向性であるのに対して、コミュニケーション保障は双方向性を持っています。昔から大学では「情報保障が大切」ということは言われてきましたが、「コミュニケーション保障」についてはあまり言われていません。この2つの特性をそれぞれ理解し、適切に要求することが重要だと感じました。

 次に宿泊施設をめぐる課題の整理をペアワークで行いました。参加者の活発な意見交換が行われていました。グループワークの結果、宿泊施設をめぐる課題として以下のようなものが挙げられていました。まず、情報保障面においては「HPにテレビに字幕がついているか載っていない」「非常時のアナウンスがわからない」「モーニングコールが使えない」、次にコミュニケーション保障面においては「メール、ファックスが本当に届いたか確認できない(電話ならリアルタイムに確認できる)」「フロントでのコミュニケーションが難しい」「部屋からフロントに連絡ができない」といった様々な具体的な課題が挙げられました。こういった課題を解決するためには、宿泊施設側の整備などだけでなく、宿泊する聞こえない人も「電話リレーサービスを利用する」「聞こえないことを伝える」といった工夫をしていく必要があります。

 最後に情報保障とコミュニケーション保障に関する技術、法制度などの社会的資源について確認しました。きこえない立場で社会参加を実現するためには、これらをうまく活用していくことが大切です。情報保障とコミュニケーション保障に関する技術、法制度などの社会的資源としては、「意思疎通支援事業による手話通訳・要約筆記派遣」「遠隔手話通訳サービス」「電話リレーサービス」「音声認識機能を使ったアプリ」「緊急通知等を受けるシステム」が挙げられます。上記のような社会的資源があるけれども十分使えていない人もいるのではないでしょうか。生活の質を上げるため、ろう者自身も情報交換をして情報を得ることが大切です。

 次のテーマ「きこえない人とライフキャリア」では、小林が講師を務めました。まず、「ライフキャリアについて、聞いたことある人?」という質問から講座が始まりました。驚くことに、聞いたことある人はいらっしゃいませんでした。仕事に限定するキャリアに対して、ライフキャリアは家庭生活、友人との交流、個人の活動といった人生に関わるキャリアを指します。次に、「ライフキャリアレインボー」についての紹介があり、私たちは生涯にわたり、家庭や学校、地域社会、職場など様々な場面において経験や役割を積み重ねてキャリアを形成していくという説明がありました。

 続いて、きこえない人をめぐる様々な要因について、環境要因をはじめ、仕事外要因、個人要因、そして緩衝要因など様々な要因が影響し合っているという説明がありました。例えば、仮に今働いているきこえない人を想定した場合、環境要因のところは、職場におけるコミュニケーションや人間関係、情報保障の有無などが当てはまります。個人要因としては、個々人のコミュニケーション能力や言語能力、主体性、情報収集能力などが挙げられます。ここで、受講生との情報共有があり、「手話通訳を頼んだが、断られて、何度もお願いしたらOKになった」「同僚とのコミュニケーションにも手話通訳を利用した」という声があり、情報保障とコミュニケーション保障の重要性をここでも感じました。

 続いては、仕事外要因の一つとして、実際に小林が調査を行ったきこえない女性の視点からの仕事と育児の両立状況について紹介がありました。きこえないということで、情報伝達やコミュニケーション面で困難を感じる傾向にあることがわかっています。例えば子供との関係として、「子供の夜泣きが聞き取れない」「聴覚障害以外の障害を持っている子供のいっていることが理解できない」などが挙げられていました。

 きこえない人は、仕事をはじめ、それ以外の場面、家庭や地域社会との関わりにおいて様々な課題を抱えている状況にあります。そこで、緩衝要因が大切でなっており、職場の上司や同様、家族や友人といったソーシャルサポートをはじめ、社会的資源、研修や集まりといった社会的支援が挙げられます。

 社会的支援が不足しており自己実現がなかなかできないという状況の中で、周囲の理解を得るだけでなく社会的資源を活用する力を身につけていくためにも、自分がきこえないことを受け止め、前向きな生き方を実現していくことが大切になってきます。ろう者学に触れることで、きこえない人の生活や文化などを知り、自分とは異なる考えや主張を理解していくことで、あらゆる環境においても適応しながら生きていける力を身につけることができるのではないかというところで締めくくりました。

 今回は、「情報保障とコミュニケーション保障」「きこえない人とライフキャリア」の2つのテーマを取り上げました。今回はじめて関西方面で開催しましたが、きこえない学生をはじめ教職員や社会人など幅広い世代の参加がありました。今後も本学で展開しているろう者学をより多くの方々に知っていただくべく、様々な取組みを続けていきたいと思います。

 同志社大学の社会学部社会学科のジェニファー・マグワイア先生、学生支援センター障がい学生支援室をはじめとする関係者のみなさまには、会場提供をはじめ、本講座の周知や会場設営、情報保障面など多大なるご協力をいただき、重ねてお礼を申し上げます。

 最後に参加してくださった皆様、誠にありがとうございました!

ろう者学講座
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