1月22日(水)に第11回ろう者学ランチトークが開催されました。
今回の講師は宇宙航空研究開発機構(JAXA)研究開発部門研究員の岡本祥吾様にお越しいただき、「宇宙用電子部品に関して-難聴者の社会参加-」というタイトルでお話いただきました。
JAXAは宇宙や航空に関する色々な仕事をしている機関で、岡本さんはロケット等の電子部品の研究開発の仕事に携わっておられます。
JAXAが打ち上げた衛星は200個以上あるそうですが、そこには必ず電子部品があります。太陽からは放射線が出ていて、大気や水のない宇宙では高エネルギーの放射線が飛び交っています。さらに宇宙は気温差も非常に激しいです。衛星に使われる電子部品はそんな過酷な状況の宇宙の環境に長い間耐え抜かなくてはなりません。そのためにチェック項目が気が遠くなるほど存在し、間違えのないように仕事をするためにはしっかりとした確認、コミュニケーションが大切となってくるとのことです。
コミュニケーションが苦手な聴覚障害者が多いですが、やりたいことをするためにはコミュニケーションがとても大切だと岡本さんはおっしゃっていました。
最近、障害者自身が権利を要求する意見や要求が増えています。それ自体は良いことですが、マジョリティに対してその苦労を知らないまま過度な要求をする障害者が増加していることを岡本さんは問題視しています。
もしあなたがマジョリティだとして、過度な要求をしてくる異なる世界で生きている人に毎日サポートなどをしたいと思うでしょうか。
現実として、聞こえる人は聞こえない人に興味を持たないことが多いです。例えば、聴覚障害者も視覚や精神、知的障害者などほかの障害者に興味を持てているでしょうか。その文化を理解できているでしょうか。そうではない人が多いのではないかと岡本さんはおっしゃっていました。
聞こえない人がろう文化や聞こえないアイデンティティを基準にしているのと同様に、聞こえる人も聞こえる人の文化を基準にして物事を判断しています。そのため、ストレートな物言いや指差し、不快音を出すなどのろう文化は異質と見られがちです。だからこそ、聴覚障害のある自分に接してくれる人を大切にすることが重要だとおっしゃっていました。
そして現代社会で生きる上で大切なのはルールやマナーを守るということです。職場においてのマナーはマジョリティの聞こえる人の文化となることが多いです。聞こえない人が聞こえる人に歩み寄ることも重要だとお話していました。( 聞こえる人優先、というわけではない。)
岡本さんの経験上の感覚では、一般的な職場だとスキルを磨いても聞こえない人は聞こえる人の6〜7割程度しか活躍できないそうです。だからこそ同僚や上司を味方につけるのが一番だと岡本さんは言います。
聞こえる人の文化を理解し、歩み寄ってコミュニケーションをし、その上でろう文化や悩みなどを知ってもらうのが遠回りに見えて、実は自分を知ってもらうための近道だそうです。
自分のアイデンティティの確立が終点ではなく、その後の聞こえる人との共生社会を築く気持ちが大切だと岡本さんは言います。そのために岡本さんは職場への入社や異動など、環境が変わるたびに必ず最初に聴覚障害者であること、そして必要なサポートなどについての資料を作り、周囲に伝えているそうです。また、サポートを受けた際に不満点がある場合は、改善案として強制はせずに提案するそうです。
その後、質疑応答の時間があり、たくさんの質問がありました。以下、質疑応答をまとめます。
Qどうやって聞こえる人の文化を学んだのですか。
A小さい頃から、仲良くなった聞こえる人に自分の変なところ、聞こえる人と違うところを教えてもらうようにお願いして、指摘してもらうことによって学んでいました。
Q発話がきれいですが、どのように学んだのですか。
A小さい頃から、聞こえる人に、自分の発話のおかしいところを教えてもらうようにお願いして、指摘してもらい、さらにその時にどのような舌の動きをしているのかも聞くことによって学んでいました。
Q発話が苦手な人はどうすればいいのでしょうか。
A無理に発話をする必要はないと思います。障害があるが故にとても困難なことを無理にする必要はありません。聞こえる人に歩み寄る、といっても筆談など自分にできる範囲で対応することが大切だと思います。大切なのは、毎日コミュニケーションをとることだと思います。
Q4月から就職をするのですが、岡本さんのおっしゃっていたように、自分についての資料を作りたいと思います。岡本さんが資料を作った時に参考にした資料などはありますでしょうか。
A私の資料の内容は、してほしいサポート内容(UDトークやPC通訳など)、自分の発話の癖について、自分のできないこと(電話など)についてです。また、「会議に出たから内容を把握しているだろう」などの先入観を持たないでほしいということも書きました。これはとても重要だと思います。
Q自分では気づけない音などを理解した上で出さないということをおっしゃっていましたが、もし出していたら教えてほしい旨はいつ周囲の人に伝えるのでしょうか。
A最初の資料に書きます。ただ、資料に書くだけでは、忙しい人などは見ないので、直接会ってお願いします。これもとても重要です。
おかげさまで教職員と学生、地域の方々合わせて25名の参加がありました。
社会レベルの大きな話ではなく、個人レベルとして聞こえない人が周囲の聞こえる人にとっても気持ちの良い平等な環境で仕事をしていくことについて学び、考える貴重な機会になったのではないでしょうか。
岡本さん、貴重なお話をどうもありがとうございました!
そしてお越し下さった皆様、ありがとうございました!